フランチャイズの36協定の概要:経営における危険な現状と実態

36協定

働き方改革が叫ばれ始めて数年たち、労働基準法などについての知識が求められるようになりました。これは企業で働く労働者だけでなく、企業を運営する経営者やフランチャイズ事業を展開している個人事業主のオーナーなども、同様に知識を持っている必要があります。

今回の記事では、労働基準法関連の中でも最も重要である「36協定」について解説します。

当該協定は労働者の労働時間、とりわけ時間外労働に関する協定についてですが、未払い賃金問題や過労死などにも関連しており、社会的責任の大きい協定の一つです。また、実態として違反している事業者が非常に多く、コンビニのフランチャイズに至っては「95%以上が違反」という状態となっています。違反状態のままで過労死などの問題が発生した場合、社会の追及は凄まじく、「知らなかった」では済まされません。

記事の内容

  • フランチャイズの36協定(サブロク/さんろく)とは
  • 36(サブロク)協定の対象範囲について
    対象者は?
    対象範囲は?
    労働時間の上限値は?
  • フランチャイズの36協定(さんろく)の届け出について
    労働組合がある場合
    労働組合がない場合の労働者代表の選出方法について
  • フランチャイズにおける危険な実態
    労働基準法順守率はわずか5%未満
  • 東京都労働局の公表した主な違反実態の内訳
  • 36協定未実施によるフランチャイズオーナーの逮捕・事件など
  • フランチャイズの36協定の概要と危険な現状
  • 総括

執筆:フランチャイズLABO
経歴:元飲食店経営者・最大4店舗運営・年商2億5000万円~従業員数120人~

フランチャイズの36協定(サブロク/さんろく)とは

協定

36協定とは、正式名称を『時間外・休日労働に関する協定届』とする時間外労働の上限について労使間で法的(労働基準法)に定められた「労使協定」のことを指します。当該協定に関する取り決めが労働基準法の「第三十六条」で定められていることから、通称「36協定(サブロクきょうてい/さんろくきょうてい)」という呼称で認知されています。

この労働基準法第三十六条では、次の2点が具体的に義務付けられています。

  1. 会社(企業)が労働者に対して、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働や休日勤務などを命じる場合は、労組などと書面による協定を結び労働基準監督署に届け出ること。
  2. 違反した場合は、罰則もあり。

労働基準法 第四章 第三十六条(時間外及び休日の労働)

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

出典:法令検索 e-GOV

36(サブロク)協定の対象範囲について

労働者

36協定では、法令が適用される対象者の範囲を「労働者」とすると定めています。言い換えると、「労働者」以外の定義に当てはまる人員は、36協定の対象外となります。では、「労働者」とはどの範囲なのか?対象外の人員とは誰なのかについて説明します。

対象者は?

「労働者」が36協定の対象ですが、企業における「労働者」とは具体的に誰を指すのか?が明確でないと正式な手続きによる書類の提出ができず、後述する「無効」などの問題が発生します。

労働基準法によると、「労働者」とは「管理監督者」ではない立場の人員を指しています。企業にもよりますが、労働組合の組合員に該当する社員や従業員は「労働者」といえ、組合員から除外されている社員は「管理監督者」である場合が多いでしょう。

また、企業によっては係長職以下の役職は「労働者」と位置づけ、課長職以上を「管理監督者」とする人事制度を設けている企業もあります。

ここで注意したいのは、「管理職=管理監督者」ではないという点です。あくまでも「管理職」という名称は使用者である企業が定義(※)しているにすぎず、「管理監督者」は、労働基準法・労働法によって定められている定義です。混同されがちな「管理職」と「管理監督者」ですが、このように定義元が異なるため36協定上は明確に立場が異なります。

※「部長は管理職・課長は管理職」などは企業の定義

対象範囲は?

36協定の対象範囲は「労働者」と定めていますが、この「労働者」とは正社員のみならず、パートタイマーや契約社員も該当する点は注意が必要です。もちろん、アルバイトも対象となります。

労働時間の上限値は?

「36協定」で設定できる時間外労働時間は、月45時間、年間360時間までと法律で定められています。2018年の改正労基法以前は『大臣告示』でしたが、現在は『法律の定め』へと格上げされ、より厳格化しています。

なお、「36協定」自体が労働基準法の原則である1日8時間・週40時間という労働条件の「例外的措置」という扱いですが、この「36協定という例外」に、さらに上乗せした例外を設けることが可能です。

この「例外の例外」は、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に労働させる必要がある場合(※)に限り、年6回まで設定できるとされています。この年6回という定義自体も2018年の改正労基法によって厳格化され、「例外の例外」に対して、時間の上限が設けられました。この「例外の例外」に関するポイントは3点です。

まず、年間での最大時間は720時間とされ、この720時間は時間外労働のみで休日労働は含まれないという内容です。(休日労働を含めると最大時間は960時間となります)

次に、単月における最大時間が、「時間外+休日労働時間数」で100時間未満までとされました。ここでは休日労働時間も含めての最大時間であることとされているので注意が必要です。

そして、2~6か月の平均で「時間外+休日労働時間数」が平均80時間以内となるようにしなければなりません。

この「例外の例外」を簡単にまとめると以下のようになります。

  • 時間外労働 ・・・年720時間以内
  • 時間外労働+休日労働 ・・・月100時間未満
  • 時間外労働+休日労働 ・・・2~6カ月平均80時間以内

※トラブルによる大規模なシステム改修作業が発生するなど、予見できない突発的な業務の増加を指します。

フランチャイズの36協定(さんろく)の届け出について

届け出

こちらは36協定を所管の労働基準監督署に提出する方法について簡単に解説しています。

労働組合がある場合

必ず企業(使用者)と従業員(労働者)の過半数で組織されている労働組合が書面による協定を結び、所管の労働監督署に書類を提出しなければならないと定められています。仮に、正式な手続きを経ずに締結された協定書を提出した場合、その協定自体が「無効」となり、違反が発覚した場合は罰則の対象となります。

なお、提出する書類(フォーマットは決まっている)には、次の事項を絶対に書かなければいけません。

  1. 適用される労働者の範囲
  2. 対象期間(最長1年間)
  3. 時間外労働・休日労働をさせる事由
  4. 時間外労働させる時間数・休日労働をさせる日数
  5. その他厚生労働省令で定める事項

▼労働基準法関係主要様式について:厚生労働省ホームページ

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/

▼電子申請:e-GOV

https://shinsei.e-gov.go.jp/

労働組合がない場合の労働者代表の選出方法について

従業員の過半数以上で組織された労働組合がない場合、代わりに労働者代表を選出し、当該人と企業によって協定を結ぶ必要があります。

労働者代表を選出する際の手続きは、一般的に「投票」または「挙手」「労働者間の会合」などで構わないとされていますが、正社員だけでなくパートタイマーおよびアルバイトなどを含む全労働者の過半数が、労働代表者を支持していることを明確に示せるよう、民主的な手続きが取られていることが重要となります。(よって、投票が多いとされています)

例えば、最年長者が自動的に労働代表者となったり、親睦会の幹事を自動的に労働者代表として選出したりなど、このような場合は無効となります。これは、「労働者の過半数がその年長者・幹事を支持している」という民主的かつ明確な根拠がないためです。

また、「自動的に選出する」という方法や、労働者代表を企業が指名した場合も無効となります。労働者代表はあくまでも労働者によって決められなくてはならず、企業側である管理監督者が代表者の選出に関与・指示してはなりません。

フランチャイズにおける危険な実態

危険

「36協定」の概要や注意点を説明しました。ここまでお読みいただいたフランチャイズ関係者の方には是非、次の項目も確認してほしいです。なぜなら、多くのフランチャイズではこの「36協定」が結ばれていなかったり、そもそもの労働基準法に関する問題が存在していたりと、確りとした経営がされておらず、事件に発展しているケースも散見されるためです。

労働基準法順守率はわずか5%未満

2017年(平成29年)、東京都労働局はフランチャイズ経営のコンビニに対する監督指導結果を公表しました。東京都労働局の結果によると、監督実施事業場数269事業場のうち、違反事業場が257事業場となっており、実に「95.5%」の事業場が違反しているという結果となっています。

東京都という限られた地域の結果ではあるものの、日本の縮図ともいえる東京都での実態であるため、地方も同程度の違反状況であることがうかがえます。

東京都労働局の公表した主な違反実態の内訳

以下は、東京都当同局の公表した主な違反の実態です。ここで紹介する事案は36協定以外の違反事項も含まれていますが、コンビニなどで常態的に行われている違反行為のうち、特に労働時間に関するものが多いという結果となっています。

これは、コンビニエンスストアなど小規模経営の場合、オーナーが労働基準法に関する知識に明るくないという背景も垣間見え、その結果がもたらした惨状であると言っても過言ではありません。

  1. 時間外労働・休日労働に関する協定届(36 協定)を 締結せずに又は適法な 36 協定を締結せずに、時間外 労働を行わせていたもの(労働基準法第 32 条・第 40 条) ・・・110 事業場(40.9%)
  2. 36 協定で定める限度時間を超えて労働させていたもの (労働基準法第 32 条・第 40 条) ・・・44 事業場(16.4%)
    ●事例:店長(管理監督者ではない)に対し、36 協定の限度時間(1か月 45 時間)を超 え、1か月 100 時間以上の時間外労働を行わせていた。
  3. 深夜業に従事する労働者に対し、6か月以内に 1回、健康診断を行っていなかったもの (労働安全衛生法第 66 条・労働安全衛生規則第 45 条) ・・・161 事業場(59.9%)
    ●事例:夜勤の外国人アルバイトに、深夜業に関する健康診断を行っていなかった。
  4. 1年以内に1回、定期健康診断を行わせていなかったもの (労働安全衛生法第 66 条・労働安全衛生規則第 44 条) ・・・145 事業場(53.9%)
    ●事例:1年以上勤務している正社員に、定期健康診断を行っていなかった。
  5. 満 18 歳に満たない労働者を深夜に労働させたもの (労働基準法第 61 条) ・・・5事業場(1.9%)
    ●事例:高校生のアルバイトに、1か月に数回、午後 10 時を超えて労働させていた。

36協定未実施によるフランチャイズオーナーの逮捕・事件など

36協定の届け出をしないままに事件化した事例や、36協定を結んでいるにも関わらず上限時間を超過した事件など、2件紹介します。どちらの事例も法令違反であるため、オーナーは書類送検となっています。

コンビニ経営者を書類送検 店長に違法残業させた疑い 京都 

コンビニ店長だった男性(34)に違法残業をさせたなどとして、京都南労働基準監督署は13日、労働基準法違反の疑いで男性経営者(38)を書類送検した。

労基署によると、男性は平成28年1月から約半年にわたって時間外労働を繰り返していたが、経営者は勤務時間記録を少なく書き換えるなどしていたという。男性はほぼ24時間連続して勤務した日があったほか、約1カ月間休みがなかった。

書類送検容疑は同年3~4月、京都市伏見区と南区の「ローソン」2店舗の店長だった男性に対し、必要な労使協定(三六協定)を結ばないまま、法定労働時間の1日8時間を超えて残業をさせ、深夜労働などに対する割増賃金を支払わなかった疑い。

男性は精神疾患を発症したため、29年5月に労災申請。その後、労災認定された。経営者は容疑を認め、労基署に「新店舗開店のため人手が足りなかった」と説明している。(原文ママ)

引用:2018年9月13日産経新聞記事

グルメ杵屋を書類送検 違法な長時間労働―大阪労働局

大阪労働局は13日までに、従業員に違法な長時間労働をさせたとして、うどん店「杵屋」などを運営する「グルメ杵屋レストラン」(大阪市)を労働基準法違反の疑いで大阪地検に書類送検したと発表した。 

労働局によると、同社は2019年4月から12月の間、正社員やアルバイトなどの男女12人に対し、大阪市内の5店舗で労使協定の上限を超えて違法な時間外労働をさせた疑いがあるという。労使では時間外労働を1カ月に最大75時間までと取り決めていた。しかし、最長で110時間以上の時間外労働をさせていていたケースがあった。 同社は杵屋のほか、そば店「そじ坊」などを合わせ全国に約350店を展開している。親会社のグルメ杵屋は「既に全店で労働環境を改善した。このような事態が二度と生じないよう体制の構築を図る」とコメントした。(原文ママ)

引用:2021年1月13日JIJI.com

総括:フランチャイズの36協定の概要と危険な現状

今回の記事では、36協定をメインとして労働基準法関連の情報とフランチャイズの危険な現状について解説しました。簡単にまとめます。

  • 36(サブロク・さんろく)協定とは、労働基準法36条で定められている時間外労働の上限を定めた法律である
  • 36協定の対象範囲は「労働者」である
  • 「管理監督者」は36協定の対象外である
  • 一般企業における「管理職」と「管理監督者」は異なる
  • 36協定は、労働基準法の「例外的措置」である
  • 「例外的措置の例外」として、労働時間の上限値は年間740時間などと詳細に決められている
  • 36協定を所管の労働基準監督署に提出する際は、「無効」とならないよう手順を踏まなければならない
  • 基本的には労使(企業と労働組合)で協定を結ぶ
  • 労働組合がない場合は民主的手続きにより選出された「労働者代表」と企業側で協定を結ぶ
  • 東京都労働局の発表によると労働基準法を順守していたコンビニフランチャイズはわずか「0.5%」であった
  • 労働基準法を違反した事業場で問題(労災認定・過労死など)があった場合、オーナー等は書類送検される

 

フランチャイズ起業するとき、多くの人は「有名だから」「儲かりそうだから」というような感覚値で行動しようとします。確かに、ネームバリューがあり店舗も増え続けているFCであれば上手くいくこともあります。

しかし、その一方で「広告が上手い」という理由だけで有名になってしまうFCモデルも存在します。つまり、全く儲からないにも関わらず、ブランディングや集客技術が高いことで加盟者が増加する現象が起きているのです。もちろん、加盟者は利益をあげることができず、結果的に苦しい生活を送ることになります。

フランチャイズ本部のキャッチコピーや収益モデルを鵜呑みにしてはいけない、ということです。そして、真実を解き明かすためには、自身で収益モデル分析を行えるようになる必要があります。開業前資金やイニシャルコスト、借入返済計画や損益計算書などを独自に作成できなければならないということです。

もちろん、本部が開示している数値を当て込むだけでは意味がないため、内外装工事における平均坪単価を調べたり、一般的な物件取得費用を理解したりする必要があるわけです。

もっと言えば、ランニングコストとなる「採用教育費」「広告宣伝費」「福利厚生」「通信費」「光熱費」「地代・家賃」「雑費」「租税公課」といった項目に適切な数値を入れることで、ようやく「本当に儲かるのかどうか」がわかるようになるのです。つまり、経験値から生まれる「プロの視点」が求められるということです。

ただ、そうは言っても多くの人は素人であるため、不可能な話です。そこで、私が代行してすべての数値を明らかにし、「現実的に儲かる可能性の高いFCモデルのみ」部門別、かつランキング形式で掲載しています。「真実の数値」を解き明かし、その根拠を理解することでフランチャイズビジネスは成功します。

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