フランチャイズ契約では、「本部」「加盟店」双方によるトラブルが多く存在します。些細なトラブルであれば両者協議にて和解は成立するものの、紛争に発展した場合は訴訟問題になり兼ねません。
そこで、フランチャイズ契約における「訴訟」にスポットを当てつつ、過去に起きた実際の訴訟や判例について記載します。その上で、気を付けるべきポイントやフランチャイズ契約の問題点などについても解説します。
記事の内容
- フランチャイズ契約における訴訟事例
- フランチャイズ契約での問題点やトラブルと注意点について
- 総括
執筆:フランチャイズLABO
経歴:元飲食店経営者・最大4店舗運営・年商2億5000万円~従業員数120人~
フランチャイズ契約における訴訟事例
まずは、実際に起きたフランチャイズ契約における訴訟として有名な事案を、2点紹介します。これらの訴訟はどちらもオーナー(加盟店)側が原告となっており、フランチャイズ「本部」を相手取った裁判です。どちらの事案も既に判決が下されており、一方は加盟店側が「勝訴」、もう一方は加盟店側が「敗訴」しています。
事案1:FC「本部」による契約締結過程の勧誘行為の違法性と経営指導義務違反
FC本部側の、①契約締結過程における勧誘行為の違法性と、②経営指導義務違反について判断した事例です。本件は、原告である加盟店が「勝訴」しています。(東京高裁 平成21年12月25日 判決)
▼訴訟の概要
大衆的な食堂を首都圏で展開する会社B(本部)に対して、Bとフランチャイズ契約を締結したA(加盟店)が訴訟を起こした事案です。
Aは、契約で定める区域内での出店が容易であるなどと虚偽の説明によって契約をさせられた等として、B(および、その業務委託会社)に対して、損害賠償等を求めました。
▼論争
- AとBとの間の契約締結過程における、「契約で定める区域内での出店が容易である」などとの勧誘行為は、詐欺に該当する違法なものか。
- Bに経営指導義務違反があったといえるか、それが認められる場合、損害額をどのように算定するか。
- フランチャイザーであるBからのフランチャイズ契約上の競業避止義務に基づく営業の差止め及び違約金の支払を求めることが許されるか。
▼判決
- AとBとの間の契約締結過程における、契約で定める区域内での出店が容易であるなどとの勧誘行為は、詐欺に該当する違法な行為である。
- Bに経営指導義務違反は認められる。そして、その損害額の算定には、民事訴訟法248条(損害額の立証が困難な場合に、裁判所が、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる旨の規定)を適用する。
- 勧誘行為が詐欺に該当するとされ、また、経営指導義務違反があったとされたBが、フランチャイズ契約に基づきフランチャイジーの競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)を主張することは信義誠実の原則に反し、権利の濫用であって許されない。
▼要約
本部側であるBは、事案内に出てくる「区域内」での出店が難しい(立地的に困難)と知りつつ、開店が簡単で、同商圏にて独占的に商売ができると加盟店(オーナー側)Aに対して、虚偽の説明をしたと認定されました。事案内では業務委託会社も含んで相手取っているため、後述する本部「担当者」の所属にも関係しているものと思われます。
事案2:近隣に他の店舗を新規出店したFC本部に対する損害賠償請求
コンビニのフランチャイズ加盟店が、近隣に他の店舗を新規出店した本部に対して、「店舗の売上減少に対して代替措置等をとらなかったことは営業努力配慮義務違反等に当たる」とし、損害賠償を求めた事案です。本件は、原告である加盟店が「敗訴」しています。(東京地裁 平成29年10月16日 判決)
▼訴訟の概要
1、被告Y(本部)は、「A」というコンビニエンスストアを全国展開する株式会社である。平成18年に、原告X(加盟店)は、Yとの間でコンビニエンスストア「A」の店舗の、『加盟店基本契約(フランチャイズ契約)①』を締結。同契約に基づいて、翌平成19年から、神奈川県横浜市神奈川区菅田町において1号店の営業を開始した。
4年後の平成23年、X(加盟店)は、Y(本部)との間でさらに『加盟店基本契約②』(以下、『本件契約』)を締結して、同町に2号店(以下「本件店舗」という)を開店し営業を開始した。
2、『本件契約』には、以下のとおりの定めが存在する。
■第6条(経営の許諾と地域)
- 1項:A店の経営の許諾は、Xの店舗の存在する一定の地域を画し、X(加盟店)に排他的、独占的権利を与えたり、固有の営業地盤を認めたりすることを意味しないものとする。
- 2項:Yは、必要と考えるときはいつでも、Xの店舗の所在する同一市・町・村・区内の適当な場所において、新たに別のA店を開設し、または他のフランチャイジーにA店の経営をさせることができる。Yは、このような場合においても、Xの営業努力が十分報いられるように配慮する。」(以下、6条2項第2文を、「本件配慮規定)という)
3、Y(本部)は、平成26年、「本件店舗(加盟店であるXの2号店)」から約500メートル離れた位置に新店舗(以下「本件新店舗」という。)を出店させることを予定し、YはXに対してその説明を行った。XはYの説明に対して、「本件新店舗」と「本件店舗」の商圏が重複しており、「本件店舗」の売上が大きく減少するおそれがあることから「本件新店舗」の出店の留保を求めた。
その後、平成27年にかけてXとY間で、「本件新店舗」の出店に関して協議が行われたが、折り合わず、Yは「本件新店舗」の出店を決定し、平成27年6月、「本件新店舗」を出店した。
4、Y(本部)は、「本件新店舗」の出店の前後を通じて、X側の「本件店舗」の駐車場拡大やアイスケース及び看板の設置、個別店舗販促(※以下、補足)の実施などを行った。 また、そのほかにも、本件店舗の売上向上のため、さまざまな支援策を提案・実施した。しかし、Xは、Yからの支援策の提案に対して、本件新店舗の出店によってYとの信頼関係が失われたとして、その施索のほとんどを実施しなかった。
※廃棄となったデイリー商品の原価のうち、15万円をY(本部)が負担。X(加盟店)が廃棄の負担をおそれてデイリー商品の発注を絞らないようにするための支援策であった。
5、「本件新店舗」の出店後、「本件店舗」から約150メートル離れた位置に、弁当や惣菜を販売する「H」店舗が開店するなど、「本件店舗」の周辺には、競合のフランチャイズチェーンの店舗が相次いで出店した。
6、「本件店舗」の売上高は、平成26年7月頃から、前年比約マイナス5%程度で推移していたが、「本件新店舗」の出店後はマイナス10%~21%の間で推移し、平成28年7月頃から前年比の横ばいで推移した。
7、X(加盟店)は、売上高の減少について、Y(本部)を相手に損害賠償請求を求めて調停を申し立てたが、不成立となったため、本訴を提起した。
Xは、
- 「本件新店舗」の出店が、『本件契約』の第6条1項に違反し、債務不履行もしくは不法行為に該当する、または信義則違反であり、不法行為に該当する。
- 「本件新店舗」出店後の「本件店舗」の減収について、Y(本部)が代替措置や緩和措置をとらなかったことが「本件配慮規定」に反し、債務不履行または不法行為に該当する。
と主張して、Y(本部)に対して約900万円の損害賠償を請求した。
▼判決
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『本件契約』第6条1項違反の主張について:
本件契約第6条1項は、「経営の許諾は、Xの店舗の存在する一定の地域を画し、Xに排他的、独占的権利を与えたり、固有の営業地盤を認めたりすることを意味しないものとする」とされており、Xに対して、特定地域における排他的な営業権(いわゆるテリトリー権)が認められない旨が明記されていることからすれば、同条2項にいう「適当な場所」は、単にYが適当と認める場所を意味するに過ぎない。したがって、「本件新店舗」の出店は、『本件契約』上の債務不履行または不法行為に該当しない。また、「本件新店舗」の出店は、Yが採用するドミナント出店戦略(※以下、補足)に基づくものであり、Yの経営判断が合理性を欠いていたとはいえない。そのほかYが、「本件新店舗」の出店の前後を通じて駐車場の拡大やアイスケース及び看板の設置、個別店舗販促の実施に費用を負担したこと、「本件店舗」の売上向上のための諸施策を実施したことも合わせて考慮すると、信義則違反は認められない。
※ドミナント戦略は、特定のエリアに経営資源を集中し、市場の独占を狙う経営戦略を指します。
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「本件配慮規定」違反の主張について:
Yは、「本件新店舗」出店の前に、Xに対して出店の必要性を繰り返し説明し、「本件新店舗」の出店の前後を通じて、「本件店舗」の売上向上のため、さまざまな支援策を提案・実施したのである。Yのこれらの対応が、本件配慮義務違反にあたるとは認められない。Xは、Yの提案・実施した支援策はいずれも「本件店舗」の売上減少の代替措置になり得るものではなかったと主張するが、そもそもYには「本件店舗」の売上減少を補填する義務は認められず、売上減少の要因として、競合店の開店やXが、Yの指導に従わなかったことなど、さまざまな事情が考えられることから、「本件店舗」の売上が回復しなかったことをもって、Yの提案・実施した施策が合理性を欠いていたとはいえない。
▼要約
本部側Yの提示している契約書では、同商圏内に同系列の出店が可能である旨が記載されているにも関わらず、加盟店側のXが、頑なに出店を拒否し、本部の支援策も固辞しています。また、競合他社の影響による売上減少などを考慮せずに、本部側のYに全ての責任を、一方的に問うた事案であったため、判決としても容易にXの敗訴が確定しています。
フランチャイズ契約での問題点と訴訟
これら以外のフランチャイズにおける訴訟事例や判例を見ていても、ほぼ全ての訴訟の原因が、契約段階での問題点を見落としたことに起因しています。契約の段階とは、「契約前(本部が加盟店を募集している段階)」と「契約締結時(本部と加盟店の契約合意段階)」です。そして、トラブル・訴訟は、「契約締結後(実際に企業・開店後の段階)」に起きるというパターンが一般的です。
各段階にてどのような問題点があり、その後どのようなトラブル・訴訟に発展するのか、詳しく説明します。
契約前の問題点と注意点
契約前とは、一般的に「FC本部が加盟店を募集している段階」を指します。この時点で大きなトラブルが発生するわけではありませんが、後々「契約時」や「契約後」に紛争となってしまう火種の多くは、この契約前の段階に潜んでいると言っても過言ではありません。具体的にはどのような問題があるのか、注意すべき点について紹介します。
▼問題点
(例)本部「担当者」の質・レベルなどが低い
- 本部から派遣される「担当者」の質(パートナーとして信頼できるか)
- 「担当者」の「FCのシステム」や「パッケージ」に関する知識
- 「担当者」の説明に虚偽内容が含まれている
▼注意すべき点
- 派遣されてきた「担当者」の所属を確認すること
- FCのシステムについて納得がいくまで説明を受け、曖昧な点を残さないこと
- 執拗に加盟を勧めてくる場合は、断ること
FC本部は加盟店を募集する際、申し込みのあったオーナーに対して「担当者」を派遣します。しかし、その「担当者」が必ずしも「本部に所属する正規の社員」ではないというのが、問題点として挙げられます。
FC本部は営業力拡大のために、説明要員である「担当者」を、外注(外部委託)で集めている場合があります。このような「担当者」は、FCシステムや加盟店に提供される「パッケージ」についての説明が疎かであったり、最悪の場合は説明が間違っていたりと、後々トラブルとなる可能性を秘めています。
また、外部委託された「担当者」であれば、営業としての側面が強く、「加盟店募集に対してノルマ」があります。このような「担当者」は加盟させることがミッションとなっているため、オーナーの収益(成功可否)については重視しておらず、とにかく加盟させることに力点を置いています。説明が疎か(または間違っている)で、都合の良い点ばかりを強調する「担当者」には注意しましょう。
本記事で紹介した訴訟事例の1点目も、「業務委託会社」を相手取って訴訟を起こしていることから、本部の「担当者」に問題があったものと思われます。また、当該担当者の「虚偽の説明」も判例に影響を与えています。
契約前の段階であっても、後々「パートナー」となるかもしれない「本部」側には、積極的に働きかけることが重要です。まずは、担当者の所属を開示してもらう(※)ことが重要であり、説明に違和感を感じる場合などは担当者を代えてもらうことが大切です。また、このような要望に従わない「担当者」の場合は、早々に「断る」という決断も必要です。
※参考文献:金光秀文(2006)『フランチャイズ・トラブル』信山社・岩波ブックセンター
契約締結時の問題点と注意点
契約締結を行う際は、「本部」側の説明資料や収支予測などを元にオーナーが決断をすることとなります。この時点での問題点が一番多く、契約後に訴訟となるケースが内在します。どのような問題があるのか、注意すべき点について紹介します。
▼問題点
(例)本部側の説明不足を指摘できない。また、提示資料を鵜呑みにしてしまう。
- 中小小売商業振興法に定める事項について説明がない
- 契約の根幹をなす重要な事項について説明がない
- 虚偽もしくは誇大な説明をされる(過大な売上予測など)
- 民法で定める詐欺行為、不法行為等に該当するような説明
▼注意すべき点
- 一般的な契約時の法令について、事前に勉強しておくこと
- 説明資料など、不明点・不審点は追及すること
- 売上予測(収支予測)の根拠について理解・把握すること
- 契約内容についての理解・把握をすること(不安な場合は法律家などにも確認)
フランチャイズの契約を締結する際は、「本部」から「オーナー」に対して、加盟の意思決定を左右する様々な資料が提示されます。提供される「パッケージ」など、基本的な資料以外にも、事業継続可否の根拠として「売上予測(収支予測)」なども提示されます。しかし、このような資料を鵜呑みにしてしまうと、後々トラブルが発生し、最悪の場合は訴訟に発展します。一番多いパターンは開業後、「本部」の予測に反して黒字化する見通しが立たない場合です。このような場合、「加盟店(オーナー側)」は「本部」に対して『事前の説明と違う』とクレームを投げることが多く、訴訟に発展するケースが多いのです。
しかし、このようなトラブルの場合、オーナーは訴訟を起こしても勝ち目はありません。本部側の売上予測(収支予測)を論理的に否定するのが難しいという点もあげられますが、加盟店はあくまでも独立事業者(開業者)であるため、「本部」から提示された収支予測と反する結果となったとしても、責任を問うことはできないという側面が強く働きます。本部側の説明が「法令違反」や「虚偽の説明」などに該当すると認定されない限り(または、オーナー側が立証できない限り)は、本部に責任を問うことはできないと覚悟する必要があるでしょう。
これらの理由から、契約締結時の「本部」側の説明事項は法令順守であるか等の確認は勿論、契約に関する基本的な知識や、売上予測(収支予測)は、予め勉強しておくことが重要となるのです。
契約締結後に起きる訴訟
「契約前」「契約締結」の段階で問題点を把握しつつ、注意しながら契約を交わした場合でも、残念ながら契約締結後にトラブルが起きてしまいます。契約締結後に発生するトラブルとして代表的なのは「支払い」に関するトラブルで、多くは訴訟にまで発展します。
「FC経営では加盟店が本部にロイヤリティを支払うもの」と認識されていても、実態として「何」について支払っているのかについて疎いオーナーも多いでしょう。またFC本部自体も仕組みを作って間もない場合などは、「契約自体」の練度が低く、この支払関係でトラブルを起こす場合もあります。
一般的に加盟店が支払う「ロイヤリティ」は、本部の提供する「価値」に対する「対価」として支払うものです。この本部の提供する「価値」とは、「経営ノウハウ」や「商標権」など含めた「パッケージ」を指します。もう少し細分化すると、「経営ノウハウ」には、FC本部が独自で築き上げた「儲かる方法(マニュアルや製品の製法)」や「効率的なオペレーションを会得するための研修制度」までと様々な要素が含まれており、多くは「外部に対して秘匿事項」となっています。加盟店は、これらの秘匿事項を享受できる点に「価値」を見出すからこそ、契約を締結しロイヤリティを支払うわけです。
では何故、トラブルが起きるのでしょうか。
事例として多いのは、そもそもの契約の不備であったり、加盟店側が期待した「価値」を得られずに、対価ばかりを求められたりした場合に多いのが実情です。
例えば過去に、FC本部から加盟店の情報が流出したことがあります。このように、加盟店(オーナー)側が不利益を受けた場合も、契約上の「損害賠償」について不明瞭であったりすると、トラブルになります。『情報を流されたのにロイヤリティを支払わなければならないのか』などの不満も出るでしょう。また、期待した研修が行われず、思うようにオペレーションが上手くいかない等の場合も、ロイヤリティの支払いに疑義が生じます。
反対に、加盟店(オーナー)側がFCのブランド品位を著しく欠損させるような失態を犯した場合、「本部」は損害賠償の請求を行います。しかし、このような紛争時の内容についても、契約自体が曖昧であったり、オーナー側の認識が異なっていたりするとトラブルが拡大しやすい傾向にあります。
これら「支払いに関する訴訟」も、原因をたどれば「契約」にたどり着きます。安易な契約締結は行わず、納得のいくまで理解し、判断することが重要です。また当サイトのような専門家に相談することもお勧めします。
総括:FC契約における訴訟事例について
記事のポイントをまとめます。
- フランチャイズ契約における訴訟は、オーナー(加盟店)が原告となる場合が多い
- 訴訟に発展する原因は、契約時に問題点が潜在している場合が多い
- 訴訟に発展した場合、フランチャイズ契約書の内容に準じた「客観的証拠」で判決が下る
- 虚偽説明など明らかな法令違反があった場合は、上記は該当しない
- フランチャイズ契約を結ぶ前は、フランチャイズ本部の「担当者」に注意が必要である
- フランチャイズ契約締結時は、「本部」「オーナー」双方で契約内容に認識差異が無いかを確認すること
- ロイヤリティは価値に対する対価。受け取れる価値については特に詳細を把握すること