日本では、生産年齢人口の比率の減少に伴い、働く人材が不足している職場が少なくありません。いわゆる「人手不足」です。
人手不足の職場で働いている場合、転職したいと思ってもなかなか自分から言い出せず、機会を逸してしまうこともあるようです。また、上司から強く引き留められ、転職を意思決定できていない人もいるでしょう。
本来、憲法で職業選択の自由が保障されているため、転職は個人の意思の基づいて自由に行われるべきです。とはいえ、現在職場が人手不足の状態であれば、自分だけ転職していいのだろうか、と迷う気持ちもあるでしょう。
本記事では、人手不足ということを理由に転職を検討しようとする際、下記について解説していきます。
- いかに穏当に退職するか
- 自分で解決することができない場合はどうすればいいのか
- 人手不足でやめたいという理由を、転職活動でどう取り扱うのか
人手不足で仕事、会社をやめられない:上司から「やめないで」
人手不足の職場では、上司もできるだけ辞めてほしくないと思っているでしょう。そのため、あの手この手で引き留めを行うことがあります。下記の事象に対しての対応方法を解説します。
- 引き留められた場合の対応方法は?
- 職場の同僚に迷惑をかけてしまう自分の気持ちへの対応方法は?
- 退職する際は、文句を言うのではない
引き留められた場合の対応方法は?
引き留められた場合の対応方法は、上司の言うことが全て理にかなっているとは限らないので、冷静に、退職の意思を伝え「続ける」ことです。
なぜなら、上司が引き留める際にどう話すかに関係なく、大抵のことは転職をやめてもらうために内容として、全く間違ったものである場合が多いからです。
例えば、感情に任せて下記のようなことを言われることがあるでしょう。
- 「今でも大変なのに、もっと大変になるのがわからないのか?」
- 「育ててあげたのに、裏切るのか?」
- 「業務に支障がでるからダメだ」
1については、それが退職することを止める理由にはなりません。また、大変なのは辞めようとしている人のせいではありません。会社の問題です。
2については、辞める、辞めないにかかわらず、業務をこなすための人材育成は上司の当たり前の仕事です。恩に着せられるほどのものではありません。
3については、業務に支障がでるほど困ることは、ほとんどありません。仮に、業務に支障がでたとしても、固有の1人が退職することで、業務的に余裕がなくなる職場にしているのは上司の責任です。辞める人の責任ではありません。
このように、退職を止める理にかなった説得になっていないので、冷静に対応し、退職の意思を伝え続けましょう。
職場の同僚に迷惑をかけてしまう自分の気持ちへの対応方法は?
前述のような上司から直接引き留めに合う以外にも、退職してしまうと残された人に迷惑がかかるのでは、と思い躊躇することもあるでしょう。そのような自分の気持ちへの対応方法は、「気にしない」ということです。
なぜなら、1人が抜けることで、業務が大変になるのは会社や職場の上司の責任です。退職しようとしている人の責任ではないからです。
今までも何人か退職していることはありませんか?過去、退職した人がいても、残った人で何とか業務をこなしてきた経験があると思います。
今よりも自分らしく働くことのできる職場に転職できるのなら、退職の意思をちゃんと伝えるべきです。
退職する際は、文句を言うのではない
退職する際、文句を言って退職するのではないということを心掛けてください。
なぜなら、相手を感情的にさせてしまい、きちんと話し合いに応じてくれず、ちゃんと退職できない、ということになりかねないからです。
例えば、「職場が人手不足で困っているのに、上司として支援してくれなかった」と言わなくてもいいのです。なぜなら、言われた上司は、退職の話し合いのテーブルについてくれなくなるからです。
「他にやりたいことができた」「肉体的・精神的に今後の対応が難しいのでやめさせてもらいたい」と伝え、文句を言って鬱憤をはらすようなことは、一切やめておきましょう。
人手不足で仕事を辞められないとき
ただ、どんなに頑張っても人手不足で仕事をやめられないときもあるでしょう。
それでも辞めさせてくれない場合は外部を頼る
言葉を尽くしても、辞めさせてくれない場合は、外部を頼りましょう。退職を直接的・間接的に支援してくれます。
- 退職代行サービス(直接的支援)
- 転職エージェント(間接的支援)
- 労働基準監督署(直接的支援)
退職代行サービス(直接的支援)
退職代行サービスを使う選択肢があります。有料ですが、退職交渉を自身に成り代わって交渉してくれます。「これ以上話したくない」と強く思う場合は、有力な選択肢です。
なぜなら、退職代行は、基本的に退職をしたい人に成り代わって、企業と交渉し、スムーズに退職の合意を得ることで報酬を得る仕事だからです。
サービスの質に各社バラつきがあるため、かえってトラブルにならないよう、弁護士資格は持っているか、ちゃんと話し合いができそうか、など見極めて利用する必要があります。
転職エージェント(間接的支援)
転職エージェント経由で、次の仕事が決まっている場合は、担当のキャリアカウンセラーの人にお願いして、どのように退職交渉するのか相談することも、選択肢のひとつです。
なぜなら、転職エージェントは今まで何人もの退職・転職に携わっており、退職交渉の効果的な進め方など、ノウハウをもっているからです。
転職エージェントが直接、現在の職場に対して退職交渉を行うことはできません。あくまで自分自身が退職交渉を行う間接的支援ですが、さまざまなヒントを得ることができるでしょう。
このように、転職エージェントの力を活用することは、とても有益です。
労働基準監督署
退職することによって、賠償金を請求されたり、脅されたり、友人など代わりの人間を紹介することを強要されたり、といった常軌を逸したことにまで事態が悪化した場合に限り、労働基準監督署を利用することも選択肢のひとつとして持っておいてよいでしょう。
なぜなら、明らかに労働基準法に抵触することがあれば、労働基準監督署が介入してくれる可能性があるからです。
明らかに労働基準法に抵触するかどうかがポイントです。このあたりの判断が難しければ、労働基準監督署の窓口にいって相談してみてもよいでしょう。できれば、就業規則記載の退職に関する条項を、頭に入れて相談すべきです。
退職交渉を成功させる一番の決め手は、転職先を決めること
退職交渉を成功させる一番の決め手は、前もって転職先を決めておくことです。
なぜなら、「他にやりたいことができた」ということを説明しやすいですし、「転職先にいつから働けるのか」と聞かれているので、退職日を決めたいと言いやすいからです。
何より、次が決まっているという精神的な余裕は、退職に向けた交渉を冷静に、着実に対応することに、役に立つからです。
人手不足の職場で働かれている方は、忙しいので転職活動が難しいかもしれませんが、今はさまざまな転職支援のチャネルがあります。転職エージェントであれば、一度カウンセリングしてもらえれば、仕事を探してもらえます。登録するだけで、募集元の企業が声をかけてくれるようなダイレクトリクルーティングもあります。
このように、さまざまなチャネルを利用して、退職を切り出す前に転職先を決めておくことが、スムーズに退職するにあたって、とても重要なことなのです。
人手不足だからやめましたという退職理由
人手不足の職場で、拘束時間も長く、心身ともに疲れ果てる職場を退職するにあたり、「人手不足でとても大変だったので、前の職場を辞めます(辞めるつもりです)」という退職理由は、特に違和感はないでしょう。
しかし、転職活動の際、面接などでそのまま話をするのは、あまりおすすめできません。
繰り返しですが、スムーズに退職するにあたって、退職の前に転職先を決めておくことがとても重要なのです。転職先を決めるということは、応募し、選考に合格し、内定をもらうということです。
下記、面接などでの退職理由の話し方について、解説します。
- 退職理由の適切な話し方は?
- 志望理由と退職理由、どちらを先に考える?
退職理由の適切な話し方は?
「人手不足でとても大変だったので、前の職場を辞めます(辞めるつもりです)」という話し方は適切ではありません。
なぜなら、一般的に適切なのは、転職先を志望した、「前向きな理由」に関連づけた、退職理由だからです。
具体的には、「〇〇だから志望した」という理由があるはずです。その〇〇が今の職場にはない、という形で退職理由を述べるのが一般的です。
冒頭の退職理由が不適切なのは、「人手不足でとても大変だったので、前の職場を辞めます。貴社は人手不足ではなさそうで、楽そうだから応募しました」となってしまうからです。
また、人手不足の職場の大変さを、他社の人にわかってもらうのは難しいことなのです。
このように、前向きな志望理由を考えて、それに関連付けた退職理由を話すのが適切なのです。
志望理由と退職理由、どちらを先に考える?
志望理由と退職理由の関係では、先に志望理由をきちんと整理することをおすすめします。
なぜなら、人手不足の職場で大変だった場合、退職理由から考えると、面接時に相手に納得してもらえる志望理由となりにくいからです。
「職場が楽そうだ」とか、「残業が少なそうだ」という志望理由ではなく、仕事に興味をもった志望理由を必ず用意しておきましょう。そして、現在の職場にはそれがない、ということを伝えられればいいのです。
このように、仕事ベースの前向きな志望理由を考えてから、退職理由を考えるようにしましょう。
やりがいを軸にした転職活動の進め方
人手不足の職場から、自分らしく働ける職場に転職するためには、転職活動を行う必要があります。
「人手不足の職場は大変だから、楽な職場に行きたい」という理由だけでは、次の職場を探す視野が狭くなります。
ぜひ、やりがいも見つけることをおすすめします。
やりがいを見つけるための、転職活動のポイントは、下記です。
- 自己分析
- 求人の情報収集
自己分析
自分自身のやりがいをベースにした転職活動において、自己分析は最重要です。
なぜなら、どのような仕事内容や、働き方であれば、自分らしく働けるのか、やりがいをもって働けるのかを分かっておかないと、良い転職先を見つけることは難しいからです。
また、面接時に志望理由を述べるのに、自分のことが分かったうえで述べないと、面接官にもはっきりと伝わりません。
いきなり、自己分析をするのは難しいので、キャリアアンカーや、ライフラインチャートを使った自己分析をおすすめします。
このように、自分自身のやりがいをベースにした転職活動において、自分自身がどのような仕事内容や働き方であれば、やりがいを感じるのかを言葉にできるようにしておくのは、とても重要です。
参考:HRプロ 用語集 「キャリアアンカー」
参考:厚生労働省 職業能力開発局 「ライフラインチャート」
求人の情報収集
人手不足の職場で働いているのであれば、転職活動の時間が取りにくいこともあるでしょう。最も効率よく実施しなければならないのは、求人の情報収集です。
なぜなら、志望度の強い企業の面接は、時間を確保しなければどうにもなりませんが、最初に、より多くの求人情報を集めるのは、効率的に実施できるからです。
例えば、転職エージェントを活用すれば、担当のキャリアカウンセラーから希望条件の求人情報を提示してもられます。また、転職サイトでは希望条件を入力しておくと、該当する求人情報が送られてくるのです。
また、経験が豊富な方は、スカウト中心の転職サイトもあるので、スカウトの中から希望条件に該当するものを選別していきます。
このように、今は求人情報を届けてもらえる経路がいくつか存在するので、それらを利用して、仕事をしながらでも、より多くの求人情報を集めることを効率的に実施することが重要です。
人手不足で仕事や会社をやめられない問題について総括
新型コロナウィルスの影響による、景気停滞期の現在でも、日本は構造的な人手不足に悩まされている職場が存在します。
それらの職場では、拘束時間も長く、心身ともに疲れている方も多いことでしょう。そのような職場を辞めて、できれば他に転職したいと思うのは、当然かもしれません。
そのためには、転職活動において成功を収めなければなりません。具体的には、自分らしく働ける、やりがいのある転職先を見つけ、応募し、選考を通過して内定を得る、ということです。
人手不足だから大変、楽な職場にいきたい、という願望だけでは、転職活動をうまく進めることはできません。
自分自身がやりがいを感じる仕事や働き方をきちんと整理し、それを志望理由としてうまく伝えられる必要があります。
また、なるべく多くの求人に触れることが必要です。さまざまなサイトやサービスを自分なりに取捨選択し、できるだけ効率よく求人情報を集めるようにしてください。