日本では、少子高齢化に伴い、働く人が不足しがちですが、「人手不足」の実感は、人が足らない職場で働いている人たちが最も感じていることでしょう。
統計データや、さまざまな文献に表現される以上に、実際の職場の状況は大変です。なかには、精神的・肉体的に負担が大きくなっているケースもあるでしょう。
そのような職場で継続して働いていることで、心身ともに何らしかの症状(例えばうつ病など)を発症してしまえば、働くことも困難になってしまう可能性があります。
できれば、そのようなことになる前に、対応を考えたいところだと思います。
しかし、自分の職場に関して、人手不足の影響はどれ程度なのか、働き続けても大丈夫なのか、について検討するのは、難しいかもしれません。また、自分自身の心身の変調に気づけるかどうかも、症状などに関する知識がないと困難です。
本記事では、現在の職場について、人手不足の影響度合いや今後の見通しを客観的に評価する評価軸と、その結果を踏まえてどのように意思決定すればいいのか解説します。
人手不足でうつ病:働くのが辛い職場状態
本記事では、どのような職場であれば、人手不足の影響が大きく働くにあたって要注意な職場と判断できるのか、具体的に説明します。下記に説明する職場状態は、人手不足の影響がでているレベル順に表現しています。自分自身の職場に置き換えて、評価してみてください。
- レベル1:仕事の負荷が大きい状態
- レベル2:コミュニケーションが少なく殺伐とした状態
- レベル3:休みがとれなくなり体力的にきつい状態
- 好ましくない職場状態が継続している状態
レベル1:仕事の負荷が大きい状態
一人ひとりの仕事の負荷が大きい状態は、人手不足の影響がでている職場状態だと言えます。
なぜなら、全体的に負荷が大きい状態ということは、必要な人員数が確保できておらず、仕事が正常の状態でまわっていない可能性があるからです。
例えば、人が次々に辞めていき、全体の業務量をカバーできていないときに、一人ひとりの仕事への負荷が増大します。
一人ひとりの業務負荷が大きい状態が続いている職場は、人手不足の影響を受け、厳しい状態にあると言えます。
レベル2:コミュニケーションが少なく殺伐とした状態
職場全体のコミュニケーションが少なく、殺伐とした状態は、人手不足の影響が顕在化しつつあると、とらえることができます。
なぜなら、特定の人と人のコミュニケーションが悪いのではなく、組織全体が殺伐としているということは、一人ひとり余裕のない状態で、抱えているものをこなすので精一杯という可能性があるからです。
例えば、一つ目にあげた業務負荷が大きい状態の次に現れやすいのは、職場のコミュニケーション量が少なくなることです。
組織全体のコミュニケーションが殺伐としだしたら、人手不足の影響で一人ひとりの業務負荷がさらに増す可能性があります。
レベル3:休みがとれない、残業などで体力的にきつい
有給休暇どころか、通常の休みもとれない、残業が多くて体力的にきつい職場は、人手不足の影響が分かりやすく顕在化した職場です。
なぜなら、残業が多い、休日出勤もあるということは、一人ひとりが対応時間を増やしても追いつかない可能性があるからです。
また、そのような職場では往々にして休まない、だまって残業することが美学になるケースもあり、「休ませてほしい」と容易には言い出せないこともあります。
このような状態は、人手不足の影響が色濃くでているため、長期就業の観点で検討が必要です。
好ましくない職場状態が継続している状態
上述した状態が一過性であれば、何とか我慢できるかもしれませんが、我慢して働き続けても、今後事態が改善する見通しがない場合は、人手不足の影響から脱却できず、つらい職場環境にあり続ける可能性があります。
では、改善の見込みはどうなのか、については会社の姿勢や上司といった切り口から、一定の見込みは立てられます。
次章では、人手不足によって、つらい職場環境をつくりだしている要因を解説します。
人手不足によって辛い職場状態をつくりだす要因
人手不足によって、前章のようなつらい職場状態をつくりだしている要因は、企業の姿勢面や直属の上司などです。下記に代表的な要因を解説しますので、自分の職場はどれに当てはまるか、確認してみてください。
いずれも短期的に対処することが難しい内容ばかりです。そのため、どれか一つでも当てはまれば、人手不足の影響を受け、前章で解説したような職場状態が継続すると判断できます。
- 企業の過度な短期業績追及姿勢
- クライアントのいいなり(クライアントの質)
- 管理職の姿勢
- 採用力の欠如
企業の過度な短期業績追及姿勢
企業の過度な短期業績を追及する姿勢は、人手不足を放置しがちです。
なぜなら、人件費は企業のコストの大きな部分を占めており、半期決算や四半期決算でよい業績を残そうと思うと、自然に人員の補充は後回しにされてしまうからです。
自分の職場、会社がそのような姿勢をもつかどうかは、上司を見ていれば分かります。
例えば、売上に関する話や、経費に関する話が頻出しているケースです。また、上司がさらに上役に報告する必要があるかもしれません。その際、報告を必死に書いているという行動も、企業の姿勢を表している可能性があります。
このように、短期業績追及は、職場の人手不足を放置する可能性があります。
クライアントの言いなり
過度にクライアントのいいなりになるのは、仕事がひっ迫する可能性があり、積み重なると、いつの間にか人手不足となってしまう可能性があります。
なぜなら、クライアントのニーズや意向に沿うのは重要であるものの、安い金額で仕事を受注し、無理な要求にこたえて仕様を度々変更していたら、その作業を受け持つ人たちの負担が増加してしまうからです。
自分の職場、会社がそのような姿勢や慣習をもっているかどうかは、営業担当者を見ていれば分かります。
例えば、何とか受注したいので見積を安く出す、難しい依頼も安請け合いする、など営業担当者の仕事ぶりを見れば判断ができます。
このように、クライアントのいいなりになることが正しいと認識されている職場では、負担の大きい仕事が増えていく可能性があります。
管理職の姿勢
管理職が、人手不足にあまり注意を払っていなければ、あるいは改善の意思がない場合は、人手不足は放置されがちです。
なぜなら、職場における人員の補充は、職場の長、すなわち管理職層が人事に要求することが多いからです。
人事が客観的に判断して、人員の追加採用などをしない限りは、職場に新しい人が採用されることはないでしょう。
自分の上司がそのような姿勢をもっているかどうかは、採用してほしいというリクエストにどのような反応をするかで分かります。
このように、管理職が人手不足に鈍感であれば、人手不足は放置される可能性があるのです。
採用力の欠如
企業の採用力が低い場合、人手不足は結果として改善されない可能性があります。
なぜなら、採用は自社にマッチする人材の獲得競争の側面があるからです。
例えば、競合他社で自社にマッチする人材を採用されてしまい、自社で採用できないということもあり得ます。そのようなときは、採用力が競合に比べて劣っていたといえるのです。
自社の採用力が高いかどうかは、「応募が来ているかどうか」「採用できているかどうか」という情報があれば判断できます。
このように、採用力が低いと、人手不足の職場を改善することができません。
スムーズに退職するための心構え
現在の職場が、人手不足の影響で働くのがつらい職場になっているのであれば、退職を検討する必要があります。
しかし、ただでさえ大変なのに、自分が辞めたらどうなるのか、残された人が苦しむのではないかと思い、なかなか踏み出せない人もいるでしょう。
そこで、本章ではスムーズに退職するための、下記のポイントについて解説します。
- 退職することは誰にも止められない
- 転職先を決めておく
- 自分本位で考える
退職することは誰にも止められない
原則、退職は誰にも止めることはできません。
なぜなら、法律においても、あるいは個別の就業規則においても、退職する際の手続きやルールが定められているからです。
雇用契約の期間の定めのある契約社員などは、原則、契約期間の途中で退職できませんが、1年を経過した後はいつでも退職できます。
このように、退職する権利は等しく持っていると解釈したほうが、スムーズに退職する一助になります。
転職先を決めておく
退職を申し出る前に、あらかじめ転職先を決めておければ、スムーズに退職できます。
なぜなら、退職する理由として「他にやりたいことができた」ということを説明しやすいですし、「転職先にいつから働けるのか」と聞かれているので、退職日を決めたいと言いやすいからです。
何より、次が決まっているという精神的な余裕は、退職に向けた交渉を冷静に対応することに、役に立つからです。
忙しいので転職活動ができない、と思われる人もいるかもしれませんが、今は転職エージェントやスカウト中心の転職サイトも多数存在しており、求人を探したりする手間が以前よりはるかに軽減されています。このようなところを活用して、転職先を決めてしまうことです。
このように、さまざまなチャネルを利用して、退職を切り出す前に転職先を決めておくことが、スムーズに退職する一助になります。
自分本位で考える
退職するという意思決定は、自分本位で考える必要があります。
なぜなら、退職する意思をしっかりと自分の中で確立していないと、心がゆらいでしまうからです。
「自分本位で考える」というのは、自分のために退職して新たな環境で働くことを、動機形成しておくことです。そのことにより、しっかりと自分の退職意思を伝えることができるのです。
このように、自分にとって今の職場環境がどうなのか、働き続けてメリットがあるのか、自分の力をさらにいかせる職場はないのか、と自分本位で考えることにより、退職のための心づもりができるのです。
人手不足でうつ病になる前に決断・行動する
厚生労働省の統計データによると、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しています。平成26年は392万人、平成29年では400万人を超えていて、なかでも、うつ病や認知症などの著しい増加がみられるとのことです。
平成27年から、企業(事業所単位)でストレスチェックが義務化していることからも、職場でのメンタル不全に対して、国が音頭をとって対策をしていることが伺えます。
本章では、うつ病になる前に、どうすれば徴候が分かるのか、厚生労働省が提示する下記の客観的な評価の仕方について解説します。
- うつ病でみられる症状
- 大うつ病エピソードの診断基準
うつ病でみられる症状
厚生労働省によると、うつ病で見られる症状は下記です。早期発見のためにも重要です。
ふだんの自分と違う心身の調子の変化に気づいたら、一度はうつ病をうたがってみましょう。症状に関する知識によって、自分自身の変化に気づける可能性があります。
大うつ病エピソードの診断基準
大うつ病とは、一般的に言われる「うつ病」のことであると理解してください。エピソードとは症状のことを指します。
厚生労働省が公開している大うつ病として診断される状態(診断基準)は下記です。
ご覧いただくと、複数の症状が2週間継続したり、個別の症状については毎日みられたり、うつ病としての診断は、結構ハードルが高いことが分かります。
うつ病として診断される前に、早い段階でうつ病の可能性を感じておくことが重要です。
引用:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス うつ病
引用:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス 精神疾患のデータ
総括:人手不足でうつ病・辛く疲れる職場に注意
今回は、主に下記の3点について解説しました。
- 自分の職場が人手不足の影響を受けて、働くのがつらい状態が続くかどうかの判断基準
- 退職するための心構え
- 自分自身が、うつ病など、心身ともに何らしかの不全な状態になる前に、一度症状をうたがってみること
心身に支障をきたせば、辞めるのも転職するのも大変です。そのため、早めに判断した方がよいのです。
職場も、自分自身の心身の状態も、あまり好ましくない状態であれば、思い切って退職、そして転職へと自分自身の意思で進んでいくことをおすすめします。