介護施設の人手不足は嘘か誠か:グラフ・データから見る実態と背景

加速度的な少子高齢化の進展に伴い、介護関連の需要が高くなっています。厚生労働省のデータによると、2019年時点の、65歳以上の介護保険の被保険者は3,528万人となっており、およそ10年前と比較すると、1.6倍という数値になっています。

上記を背景に、介護施設は増加しています。一方で、介護施設で働く人材の不足により、閉鎖する施設も存在します。いわゆる「介護の人手不足」です。

介護施設の人手不足

介護を支えていくには、人の力が必要であり、実際に介護人材の採用需要は高くなっています。一方、過酷な労働環境により、なかなか人材が定着しないとも言われています。

本記事では、なぜ介護施設は人手不足なのか、どのくらい人手不足なのかについて、厚生労働省が提供するデータやグラフを引用して解説します。

記事の内容

  • 介護施設の人手不足:データやグラフでみる現状
  • 介護施設の倒産は過去最多
  • 介護施設で人手不足は嘘か?そう言われている理由
  • 需要に対して大きく不足する介護人材
  • 離職率とその背景
  • 人手不足で閉鎖になる介護施設の状況
  • 人手不足に対する対応
  • 中高年齢者や外国人の確保、子育てを終えた女性の活躍推進
  • 雇用条件の改善に向けた取り組み
  • テクノロジーの導入による労働環境の改善
  • 人手不足だから採用されやすいは嘘か誠か
  • 地域や施設によって大きな差がある
  • 介護の仕事の実態
  • 資格の必要性
  • 介護施設の人手不足について総括

介護施設の人手不足:データやグラフでみる現状

介護施設の現状を、下記の点でまとめてみます。介護を必要としている人(需要)に対して、実際に利用できている人のギャップが大きく、供給が追いつかない構造になっていることがわかります。

  • 日本では、介護を必要とする人が年々増加
  • 介護施設の倒産は過去最多

日本では、介護を必要とする人が年々増加

日本では、介護を必要とする人、および実際に介護施設を利用する人は年々増加しています。

「要介護度別認定者数」の推移を、厚生労働省のデータで確認してみましょう。

下記のグラフは、要介護度別の等級である要支援、要介護1~5の、年度毎の推移を表したものです。すべての等級で年を追うごとに増加していることがわかります。

要介護度別認定者数

同じく厚生労働省のデータで、実際に介護施設を利用している人数の推移が下記のグラフです。

やはり、年々増加しています。

厚生労働省 「介護分野をめぐる状況について」

厚生労働省 「介護分野をめぐる状況について」

介護施設の倒産は過去最多

介護を必要とする人に、介護を提供すべき介護施設の倒産は、2020年には過去最多となりました。

東京商工リサーチによると、”2020年(1-12月)の「老人福祉・介護事業」倒産は118件に達し、過去最多を更新した” となっています。新型コロナウイルスの影響による、利用者の減少による倒産も数件あったようですが、それ以外は人手不足の要因が大きいとのことです。

次に、「なぜ介護業界は人手不足なのか」について解説します。

介護施設で人手不足は嘘か?そう言われている理由

介護施設の人手不足の要因となっているのは、以下です。

  • 需要に対して大きく不足する介護人材
  • 離職率とその背景

需要に対して大きく不足する介護人材

需要に対して供給が追いつかない構造的な問題による介護人材の不足が、人手不足の要因のひとつです。

下記のグラフは介護分野の有効求人倍率を、全産業と比較している厚生労働省のデータですが、介護分野の有効求人倍率は高い水準で推移しています。

介護分野の有効求人倍率

また、2025年に必要な介護人材は、厚生労働省の試算では、245万人ですが、2016年の介護人材は190万人でした。約60万人の不足が見込まれるということです。

このように、介護人材の慢性的な人手不足が将来にわたって懸念されている状態だと言えます。

引用:厚生労働省 「介護労働の状況」
参考:厚生労働省 「介護人材確保に向けた取り組み」

離職率とその背景

介護職員の勤続年数が短い、離職率が高いことも人手不足の要因となっています。

下記の表は、厚生労働省が集計した、介護職員の勤続年数です。正規職員も、非正規職員も、3年未満で離職している人が多いことが分かります。

介護職員の勤続年数

このように、需要に対して不足感があるところに、退職する人も多いことが、人手不足につながっているのです。

では、なぜこのように退職する人が多いのでしょうか。厚生労働省の資料を見ると、介護士が退職する主な理由は以下となっています。

介護士が退職する主な理由

  • 待遇に不満
  • 自分・家庭の事情
  • 経営理念に不満

特に気になるのは①③です。

①について厚生労働省の資料によると、他の産業に比べて所定内給与額が少なくなっています。そのため、待遇に不満がでるのは不思議ではありません。

③の「経営理念に不満」というのは、資料を確認すると解釈に注意が必要です。これは、業務的に負担が大きい、あるいは特定層に業務が集中され負担が大きくなるなど(正規職員に夜勤が集中するなど)の労働環境に対し、経営改善できていないことに対する指摘、という捉え方が正しいです。

参考:厚生労働省 介護労働者の確保・定着等に関する研究会中間取りまとめ案について

人手不足で閉鎖になる介護施設の状況

介護施設では、人手不足が経営に直接影響を与え、閉鎖や倒産に陥る傾向にあります。

人手不足であればサービス継続が困難になり、閉鎖するのは不思議ではありません。一方で、人件費が削減できれば利益が確保できる、という考え方もあります。

なぜ、人手不足で介護施設が閉鎖するような状況に陥るのでしょうか。

それは介護施設の売上となる介護報酬は、介護サービスとしての対価として支払われるためです。

介護サービスとは、そのほとんどが介護士という人が行うサービスです。施設から見れば、介護士は居てくれれば売上を稼いでくれる存在ということです。

下記は、介護報酬とは具体的にどのようなものがあるのかを示す、厚生労働省の資料です。

厚生労働省 介護報酬の算定構造

訪問介護費・入浴介助日・リハビリテーション費・介護福祉サービスなど、人が行うサービスによって介護報酬が受け取れるという構造になっています。

このように、介護に携わる人がいないと介護施設の経営安定にはつながらないため、人手不足が閉鎖や倒産につながるのです。

引用:厚生労働省 介護報酬の算定構造

人手不足に対する対応

今後も介護需要が高まり続けていくことを考えると、人手不足という問題に対して、何かしらの対応が必要です。

ここで、厚生労働省の資料を参照しつつ、人手不足に対する対応を解説します。下記の図は、介護の人手不足を解消するための取り組みの全体像です。

介護の人手不足を解消するための取り組みの全体像

  • 中高年齢者や外国人の確保、子育てを終えた女性の活躍
  • 雇用条件の改善に向けた取り組み
  • テクノロジーの導入による労働環境の改善

中高年齢者や外国人の確保、子育てを終えた女性の活躍推進

中高年齢者(アクティブシニア)や外国人の確保、および子育てを終えた女性の活躍によって人員を確保しようと、国を中心に対策を実行しています。これから介護学部等を卒業する人が少なくなってくることもあり、将来の担い手が心許ない状況にあるからです。

厚生労働省の資料によると、

”若年人口の減少、介護労働者の厳しい労働条件、人手不足等のマイナスイメージの報道等を背景として、介護福祉士等の養成施設においては定員割れが相次いでおり”

となっているため、若年層以外でも、今後の担い手を検討することは重要です。

既に国や地方公共団体が中心となって介護職の入門セミナー等の開催、外国人向け資格取得の支援などが始まっています。

雇用条件の改善に向けた取り組み

雇用条件の改善も、人手不足に対する対応としてはとても重要です。なぜなら、仮に人材が確保できても、労働環境が改善されなければ、退職者の増加につながってしまうからです。

国は介護報酬をテコ入れし、介護職員の処遇改善加算を設けました。さらに、介護職員の技能・経験に応じた昇給制度を整えた事業者に対しては、上乗せ加算ができるようにしています。

このように、雇用条件の改善は人手不足の対策として、とても重要です。

テクノロジーの導入による労働環境の改善

介護サービスは、提供者の身体的に負担が大きいこと、目が離せない時間が存在するなどの特徴がありますが、それ自体を緩和する技術の導入が人手不足の解決策のひとつとなります。介護サービス提供者の身体的・時間的負担を軽減できれば、労働環境が改善する可能性につながるからです。

介護ロボット

介護サービスの質の向上と、その健全な発展を図ることを目的として活動している一般社団法人シルバーサービス振興会は、介護ロボットやソリューションを提供する民間企業が会員となっています。

例えば、神奈川県の支部では、さまざまな介護ロボットが紹介されています。紹介されている介護ロボットは、要介護者の動作を検知し、次の行動を判断して対応する知能化したロボットも数多く紹介されています。

このように、技術の発展を取り入れ、介護サービスそのものの質を担保しつつ、サービス提供者の負担を軽減する取り組みは、人手不足に対する有力な解決策のひとつとなります。

周辺業務の効率化

介護職員の負担を避け、できる限り業務を効率的に行う環境改善という意味ではテクノロジーの導入が不可欠です。介護サービスの質の担保のために、介護サービス以外の周辺業務(サービス記録業務、介護報酬請求業務の負担も大きいからです。

国では、サービス記録業務や介護報酬請求業務の効率化のためのICTの標準仕様作成のために、補正予算を投じています。記録業務を効率化や、介護報酬の請求業務を簡単に行えるようになることを目指しています。

このように、介護職員の周辺業務の負担を軽減し、効率化することは労働環境の改善につながります。

人手不足だから採用されやすいは嘘か誠か

これまで、介護施設を取り巻く人手不足の実態と、解決のための国や民間の取り組みを紹介してきました。しかし、今はまだ解決の途上にあります。

もし、介護に関する仕事をしたければ、人手不足だから採用されやすいのでしょうか。また採用されやすいとしても、留意すべき点はないのでしょうか。本章では、以下について解説します。

  • 採用されやすいというのは嘘か本当か
  • 介護の仕事の実態
  • 資格について

地域や施設によって大きな差がある

総じて、採用されやすいとは言えますが、だからといって準備せずに応募することは進めません。

前章でも説明したとおり、有効求人倍率が高い状態ということは、求職者1人当たりの求人数が多いことになるため、総論としては採用されやすいでしょう。一方、地域や施設によって、人手不足感はさまざまです。

少し前のデータですが、下記グラフは都道府県別の有効求人倍率をまとめたものです。

都道府県別の有効求人倍率

このように、都道府県ごとに違いがあることが分かり、特に都心部と地方では大きな差があります。

一口に採用されやすいといっても、地域や施設によって大きな差があることを理解し、きちんと準備をして応募すると良いでしょう。

介護の仕事の実態

大変な仕事である、という覚悟をもって介護職としてのキャリアを検討する必要があります。介護の仕事は、社会的意義は高いものの、「身体的負担が大きい」「精神的にきつい」ということは想像に難くないからです。

また、前章で説明した、テクノロジーの導入による負担軽減はまだ道半ばで、施設によっても対応状況は異なります。

下記、厚生労働省の資料によると、介護職員の不安や不満として「人手不足・賃金が低い」という理由の次に、「体力的・精神的にきつい」という意見が実際に多いことが伺えます。

介護の仕事の実態

このように、実態は身体的にも精神的にも負担の大きい仕事である、と言えます。

資格の必要性

介護の仕事に、必ずしも資格は必要ではありません。しかし、介護と一口に言っても、多種多様な仕事があります。資格があった方が、自分が提供できる介護サービスの幅を、自信をもって広げることができます。

なぜなら、介護にかかわる資格は意外にも種類があり、その資格はできる仕事と連動するからです。

下記の表は、資格と仕事の対応をまとめたものです。

すべての介護現場で通用する資格 介護職員初任者研修(ホームヘルパー2級)
実務者研修(ホームヘルパー1級)
介護福祉士
介護現場のリーダー的な資格 認定介護福祉士
特定の介助場面や仕事に有利な資格 レクリエーション介護士2級・1級
ガイドヘルパー
介護予防運動指導員
認知症ケアに特化した資格 認知症ケア専門士
施設長や管理職に適した資格 ケアマネージャー(介護支援専門員)
精神保健福祉士
社会福祉士

このように、介護サービス提供の幅を広げたい、というキャリアアップに資格は役に立つのです。

介護施設の人手不足について総括

日本の介護施設は、間違いなく人手不足の傾向です。

人手不足の要因となっている内容は、仕事や労働環境、介護報酬の仕組みなどであり、この現状について、国の政策などで解決を図っている途中です。

働く環境としてみた場合は、社会的意義のある仕事です。ただ、雇用条件や労働環境などの現実を見て、介護の仕事でキャリア形成していくことを判断した方がよいでしょう。

少子化・高齢化が進む日本において、介護の仕事の効率化や労働環境の改善、介護に携わる仕事のステータス向上と魅力化は、国の総力を挙げて取り組むべき、国家的課題と言えます。

 

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